2018年7月20日金曜日

日本アンチ・ドーピング規律パネルはレセプトを調べているのか?

 実業団女子駅伝でドーピング違反
 違反した選手は中村萌乃、メテノロン(プリモボラン)などが陽性という。「JADAの発表によると、大会の約2カ月前に婦人科系疾患治療のため手術を受け、その後の注射に禁止物質が含まれていたという。純粋な治療目的の摂取だったとの主張は認められたが、医師に競技者であることを告げず、注射の成分を確認しなかった点は過失とされた」。
 この選手は、重要なレースの2ヶ月前に手術を受けて、区間2位と好成績を残した。すると入院が数日に及ぶようなものとは考えられない。日帰りや一泊二日の手術のはずだ。婦人科系となると、おそらくは円錐切除術か。
 ともあれ婦人科系の、日帰りや一泊二日の軽い手術で、筋注プリモボランを保険請求して、レセプトが審査を通るかどうか? 保険診療ルールに適合しない投薬を「過失」と認めるのは異常だ。もし自費診療であれば、それこそ「過失」と認めるのは異常だ。
 異常な点はもうひとつある。プリモボランには「男性化」という副作用がある。婦人科の医師なら、きわめて重大な理由がないかぎり、筋注プリモボランという選択肢が頭に浮かぶことはない。「風邪に抗生物質」のような悪習とは桁が3つは違う。2ヶ月後に実業団の重要なレースを走って好成績を残せるほど健康な患者に、特に理由もなく筋注プリモボランを投与するような婦人科の医師が、この世に存在するだなどと信じるよりは、ノストラダムスの大予言でも信じるほうがマシだ。
 プリモボランは、ドーピングに使われる薬として有名であり、ドーピング業界では「実績」がある。メルドニウムのようなガマの油とは訳が違う。プリモボランの主なドーピング効果のひとつは、持久系の能力向上であり、陸上長距離の競技特性に完全に一致している。
 以上の理由により、この選手がかかった婦人科の医師は、選手の求めに応じて故意にドーピングに協力していたとしか考えられない。「過失」という結論は異常で異様なものであり、この結論を出した日本アンチ・ドーピング規律パネルという組織には深刻な問題がある。

 2013年5月、奇しくも同じ実業団陸上女子で、JADAは吉田香織にドーピング違反で資格停止処分を下した。この内容が、上の事件といくつかの点が似ている。
 違反物質はEPO。これまた「実績」のあるドーピング物質で、その効果は陸上長距離の競技特性に完全に一致している。治療目的で医師から処方された薬であることも、過失と認めたことも同じ。「1ヶ月後に実業団レベルでマラソンを走れるほど健康な患者にEPOを投与」という異様さも同じ。ただし、貧血でEPOは保険請求が通るし、男性化のような深刻な副作用はないので、上の事件ほどには異様ではない。

 いずれの事件でも、日本アンチ・ドーピング規律パネルは、異常な横車を押して「過失」を認めることで、選手や競技ではなくスポーツビジネスを守ろうとしているように見える。
 日本スポーツ仲裁機構は、吉田香織のケースでは処分期間延長(1年から2年)にとどまったが、今度は故意を認定して4年の処分を下すべきである。またJSCと文科省は、規律パネルがスポーツビジネスの影響を受けないよう、組織のありかたを見直すべきである。