賢明なる読者諸氏が長いこと薄々察しておられるか、または自明のこととしておられるとおり、Windowsにはゴミが詰まっている。Appleは2年もしないうちに互換性ごとゴミを捨てるが、Microsoftは互換性のために何十年もゴミを抱えておく。だからといってOSXが(互換性以外は)特段に素晴らしいわけではない。この業界では、断捨離とセカンドシステム症候群は表裏一体である。
Windows Color System(WCS)も、Windowsに詰まっているゴミの一つだ。私は数日間、このゴミをいじくりまわし、なるほどゴミだと理解した。以下に概要を述べる。
WCSはVistaの新機能として登場し、ただちに忘れ去られた。コンポーネントとしては今でもディスプレイに使われているものの、新機能の部分は誰も使っていない。理由は山ほどあるが、「そもそも必要な機能ではなかった」が最大の理由だろう。
・ICCプロファイルとは互換性のない、しかし技術的には夢のある、新規格のカラープロファイル(cdmp、gmmp、camp)
・カラーアピアランス(CIECAM02)対応
どちらも話を聞けば説得力がある。たとえば、カラーアピアランス。もし、色温度も測れる環境光センサがついたタブレットを作れば、その画面の色を、日常生活のなかで見る印刷物と(部分的には)同じ色にすることができる。現在主流のカラーマネジメントはカラーアピアランスに対応していないので、印刷物を見るときには500ルクス・色温度5000K(正確にはD50光源)、ディスプレイを見るときには64ルクス・色温度6500Kでなければならない。並べて比較できないのだから、色が合う合わない以前の問題だ。
新規格のカラープロファイルについては、ICCプロファイルの深い話になる。以下は読者諸氏を沼の住人と仮定して話を進めると、デバイスRGB(CMYK)→PCSの対応を表すcolorimetricなテーブル(A2B1)だけでデバイスプロファイル(cdmp)がほとんど完結する、というものだ。PCS→デバイスRGB(CMYK)はもちろん、perceptualやsaturationの情報もcdmpには含まれない。かわりにガモットマッピングプロファイル(gmmp)がある。このgmmpが、ソースの色域とターゲットの色域を突き合わせて、perceptualやsaturationを生成する、という仕掛けだ。
説得力はさておき、こういうものが必要かどうか。
とりあえず今のところは、歴史はそこまでは進んでいないらしい。
なぜ私はこのゴミに手を突っ込んだのか。理由は、ガモットマッピングである。
perceptualな色域圧縮は、黒魔術どころではない。どんな色域圧縮が「期待に近い」「よく見える」かは、かなりの部分が文化やコンテクストの問題であり、つまるところ「現在よいとされているものに近い」かどうかが勝負となる。ちなみに現在もっともよいと私が感じる、また世間の評判もいいperceptualは、Japan Color 2011 Coatedだ。これで入稿できない印刷屋とは縁を切ることをお勧めする。
ガモットマッピングを自分でやるのは嫌だな、と思って調べていたら、WCSはガモットマッピングを生成するというではないか。必要とされず忘れ去られたとはいえ、Microsoftとキヤノンが作ったものだ。もしかしたら、最高とはいかなくても、使える品質のものができるのではないか?
・Japan Color 2011 CoatedのA2B1テーブル(CLUT Pointsが33)の情報を入れたデバイスプロファイルを読み込むのに数分かかる。XMLのパースが遅いため。
・上記のプロファイルで、グレーのグラデーションをソフトプルーフすると、colorimetricでもperceptualでも色がつく。
人生は厳しい。